飴を買う女ゆうれい
昔、中原町に水飴を売っている小さな店がありました。
水飴とは 麦芽で作った液状の飴で、 当時は 母乳のない乳児や病人に与えられておりました。
ここへ毎晩 夜がかなり更けてから、 一厘ずつ水飴を買いに来る女がいました。
女は、やせて青白く、物言いも細かったので、
気の毒に思った店のものが子細を聞こうとするが 女は何も答えません。
不審に思った飴屋の親父は ある晩、女の後をつけてみました。
すると女は、 中原の大雄寺の墓場あたりで姿を消しました。
気味が悪くなった飴屋はそのまま帰りましたが、
あくる晩、また女はやって来て、 飴は買わずに飴屋をじっと見つめ、何も言わずに手招きをします。
こわごわと飴屋が女についてゆくと 行き先はやはり 大雄寺の墓場。
けれど、 ごく最近埋葬された墓のあたりで女の姿が消えました。
とたんに 元気のいい赤ん坊の泣き声・・・・・
驚いた飴屋は、近所の人を呼び集め 泣き声のするあたりの墓を掘り起こしてみました。
すると、そこには毎晩、水飴を買いにきていた見覚えのある女の骸があり、
かたわらには、 差し出された提灯の明かりに泣き止んで、
足をばたばたさせながら 微笑んでいる赤ん坊がいました。
そばには水飴を入れた茶碗も・・・・・
女は、お産間近で死亡し、 埋葬されてから子供が生まれたので、
母親の幽霊となって 毎晩、水飴を買って育てていたのでしょう・・・。
母の愛は 死よりも強し。